連載 原著・過去の論文から学ぶ・14
アルツハイマー病に対する疾患修飾薬の歴史的背景と現状
下濱 俊
1,2
1医療法人社団慈誠会・認知症センター/慈誠会・光が丘病院
2札幌医科大学
pp.735-738
発行日 2025年6月1日
Published Date 2025/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.188160960770060735
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アルツハイマー病治療の現状
認知症患者の6〜7割を占めるアルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)であるが,いまだに病気を治癒する薬はない。ADは主に初老期以降に潜行性に発症し,緩徐に進行する認知症疾患である。病理学的に神経細胞脱落・シナプスの変性による著しい脳萎縮,アミロイドβ(Aβ)の蓄積を伴う老人斑とタウの過剰リン酸化がみられる神経原線維変化の著しい出現を特徴とする。
AD脳で疾患特異的に過剰に蓄積している蛋白に着目した研究により,Aβの増加→タウ蛋白の過剰リン酸化→神経細胞死というアミロイドカスケード仮説が提唱され,Aβを減らす治療を行えばADを治癒できるのはないかとの考えのもと,数多くの臨床治験が行われてきた。Aβを減らす治療薬の開発は失敗続きであったが,2023年12月にレカネマブ,2024年11月にドナネマブが,脳内に沈着しているAβを減らし,「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」の効能又は効果で保険収載された。これらの薬剤は,第Ⅲ相臨床治験では投与18カ月の時点でプラセボと比較して臨床的指標で30%程度進行を抑制したが,進行阻止や治癒は達成できなかった。AD患者のごく早期の人にしか効果はなく,合併症としてアミロイド関連画像異常(amyloid-related imaging abnormality:ARIA)が起こることもあり,薬の価格も高価である。

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