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はじめに
精神疾患と闘う患者は、その精神症状に伴って、時に激しい感情をケア者に投げ入れ、ケア者の感情を揺さぶることがあります。
感情を揺さぶる患者の代表格として挙げられるのが、境界性パーソナリティ障害(以下BPD)患者です。BPD患者は、見捨てられ不安から自分を防衛するために、自分に保護的に対応するケア者を理想化し、絶賛します。逆に保護的に対応せず、患者の問題行動を注意するようなケア者のことをこき下ろします。そして、患者に絶賛されるケア者集団と、患者にこき下ろされるケア者集団との間に対立を起こさせ、治療環境を破壊する、ということを起こします。
このような局面でチームの対立を防止するために必要なのは、「①対人状況を構造化すること」と「②カンファレンスでスタッフ同士が率直な感情表現をし合うこと」だということは、精神看護学の教科書にも記述されている*1ほどの常識です。
しかし、「①対人状況の構造化」は、市橋が作成した患者対応の基本ルール(「ボーダーラインシフト」)*2に示されているのみですし、「②カンファレンスでスタッフ同士が率直な感情表現をし合うこと」については、メンバー同士の関係性が影響し、現実的には簡単ではなく、またその方法についてはどこにも記述されていません。
ここで改めて②の課題を考えた時、筆者は「絵を描きながら議論する」ことが対話の活性化、対等な参加を可能にするのではという着想から、ファシリテーション・グラフィック*3に注目しました。そこでファシリテーション・グラフィックを用いたカンファレンスで参加メンバーの感情表出が促進されるかどうかの効果検証を行うことにしました。
その際、条件を整えるため、誰がファシリテーターを行っても同じように運営でき、感情表出を促すことができる手順書・説明書「感情表現を促すためのマッピングシート活用プログラム」(以下、「マッピングシート活用プログラム」)を作成し、検証することにしたので併せて報告します。
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