特集 壁のバカ
―病院間連携の壁―そんなに嫌なのかね,精神科の患者を診るのは
春日 武彦
1,2
1元・東京都立松沢病院
2現・東京都立墨東病院
pp.14-19
発行日 2004年5月1日
Published Date 2004/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100215
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わたしは,医者になって最初の6年間を産婦人科医として勤務していた。その頃,バイト先の医院に,夕刻になるとしょっちゅう救急車でやってくる老婆がいた。独り暮らしの奇妙に派手な格好をした婆さんで,もはや名物患者となっていた。
彼女の訴えは,いつも決まっていた。夜,寝ていたら変な人が布団に入ってきて下半身に悪戯をする。そのせいで大陰唇を取られてしまった。何とかしてくれ,という突飛きわまりないものであった。
最初の頃は,首を傾げつつとにかく内診台に横になってもらった。ちっとも性器は傷つけられていない。「別にどうにもなってませんよ」と間抜けな声をわたしが出すと,「えっ,そんなはずないでしょ」と怒る。仕方がないので腟洗浄をして「はい,これで大丈夫です」と言うと,気が済んだらしくおとなしく帰っていくのであった。
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