緩和ケア医のひとり言・5
食べられなくなってきたら―輸液の適応とステロイドの使い方
藤井 勇一
1
1埼玉県立がんセンター・緩和ケア病棟
pp.826-830
発行日 2000年10月15日
Published Date 2000/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688902081
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父は,胃がんが再発し食欲が落ちてくると体重が減ることを非常にこわがっていたようだ.父にとって,食べられないことは,衰弱して生き続けられないことを意味していた.食べることが楽しみではなく,生きるための闘い,苦痛を伴う仕事になってしまっていたのだろう.ある日,少ない食事を時間をかけて終えた父に“これだけ食べれれば大丈夫ね”と母が言うと,父は悲しそうに,そして苛立ちながら“これだけ食べるのも大変なんだ…,そんなに簡単に言わないでくれ”と答えたという.本当に必死に食べていたのだろう.そんな気持ちがわからなかった僕は缶の栄養剤を処方し,“これを何本か飲めれば充分だよ”,と励ましてしまっていた.
最後の入院のとき,父は“栄養の点滴をやってほしい”とIVHを希望した.点滴台から下げられた大きな高カロリー輸液の袋を見た父は,“これで食べないで済む”と本当に嬉しそうだった.僕はこのとき初めて,父にとって食べることがどれほど辛いことだったのかを知った.
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