カラーグラフ 終える命 つなぐいのち・第17回
墓場に持ってゆくつもりだった……
國森 康弘
pp.637-641
発行日 2016年8月15日
Published Date 2016/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688200512
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人の心は弱くて、もろく、残虐でさえある。たとえば、ナチスによるホロコーストの心理メカニズムを知るため、1961年に米国イエール大学で行なわれた希少な心理実験がある。真の実験意図を知らない学生ら40人が「教師」役となり、意図を知り本当は演技している役者が「生徒」役に。「生徒」が問題を間違えるたび、「教師」が電気ショックを与える。電圧は15ボルトずつ上昇させていく。「教師」は前もって45ボルトの痛みを、実際に体験済み。強制ではなく止められるのだが、白衣を着た「博士」役が「教師」に冷徹に続行の指示、命令を出す。
300ボルトを超えると、泣き叫んでいた「生徒」は弱り果て、声も出なくなる。「教師」には最大電圧450ボルトでは死に至る可能性があると説明されていた。結果は生徒役40人の学生全員が300ボルト以上を与え、その65%にあたる26人が致死量の450ボルトまで上げきった。中卒者や博士号取得者ら、「教師」役の被験対象を変えた数々の実験でも、結果は同様だった。平時には奥底に潜んでいる、心の弱さや権威への服従心、弱者への残虐性が、環境や立場によって前面にせり出してくるのだ。
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