連載 介護することば 介護するからだ 細馬先生の観察日記・第30回
その先の音楽、その先の介助
細馬 宏通
1
1滋賀県立大学人間文化学部
pp.66-67
発行日 2014年1月15日
Published Date 2014/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688102702
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音楽の即興は、介助の先に「創意」が生まれることに似ているかもしれない。
たとえば、入浴してもらおうとする。午後の決まった時間に入浴を設定して、湯も沸かした。さあ入ってもらおうと声をかけると、「今日は、いらない」と言われてしまう。じゃあやめましょう、で終わることは少ない。やめておくか、やっぱり入浴してもらうのかは、その先に行なうお互いのやりとりによって変わってくる。長く介助をしている人ならいくつもの手立てをもっているだろう。「沸かしちゃったから入らない?」「もうちょっと経ってから入ってみる?」で気が変わるかもしれない。一度立ってもらってお風呂のそばまでいくと「やっぱり入ろか」となることもある。あるいは、気が向かない理由を聞いてみてもよい。これは相手の今日の調子を聞くチャンスでもあり、こちらが無意識にとった入浴をためらわせる行動に気づくチャンスなのかもしれないから。それでもダメならいまはさっさと身を引いて、少し経ったらまた聞いてみる。
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