連載 介護することば 介護するからだ 細馬先生の観察日記・第14回
通り過ぎてきてしまったこと
細馬 宏通
1
1滋賀県立大学人間文化学部
pp.822-823
発行日 2012年9月15日
Published Date 2012/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688102306
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グループホームのレクリエーションで、百マス計算が使われることがある。私は細かい作業が大の苦手で、人がやっているのを見ているだけで、ぐったりする。年をとってこんな作業をやらされるハメになったら、きっとうんざりしてベッドに引っ込んでしまうだろう。自分がそのざまだから、入居者のみなさんに「どうですか」と差し出すのは、どうにもためらわれる。
しかし人の好みはいろいろで、マエバシさんには百マス計算が性に合っているらしい。レクリエーションの時間に限らず、ちょっとした空き時間にも百マス計算に取り組んでいる。それで私も、しぶしぶ、答え合わせにおつきあいする。20マスくらいで「もうええわ!」と投げ出したくなるのだが、マエバシさんの目がじっとこちらの手元を見つめているので、手を休めるわけにもいかない。マエバシさんの成績は、ほとんど毎回100点である。
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