連載 ほんとの出会い・42
リーフレットをまく経済学者
岡田 真紀
pp.810
発行日 2009年9月15日
Published Date 2009/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101435
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- 文献概要
埼玉大学名誉教授で経済学者の暉峻淑子さんは,わが家のご近所にお住まいなので,買い物先でばったりお目にかかることがある。暉峻さんと知り合ったのはある選挙がきっかけだった。たまたま同じ候補者を推していた。ある日その候補者が駅前で演説をしたが,暉峻さんの姿は見えず,私はただ演説を聴いていた。演説が終わり三々五々と帰り道についていると,暉峻さんの後姿が見えた。「先生いらっしゃっていたのですか」とお声をかけると,道行く人に選挙リーフレットを配っていらしたと言う。「私にできることはこれくらいだから」と。
そのことを候補者にも告げず,ただ自分がしなくていけないと思ったことをし,黙って帰る。この姿勢は,長年続けておられるコソボの難民支援にもつながる。昨年も81歳で現地を訪ね,セルビア人とアルバニア人の若者たちに自転車の組み立てを指導してきた。自転車があれば,距離がある所に仕事に行ける,修理ができれば,それが仕事にもなる。何よりも異なる民族の若者がともに働くことで自然に心が通い合い,融和につながることが大事,とのこと。今こそ戦火が収まっているが,爆弾が飛びかう中でも支援活動を続けていた。「学者なのに,なぜそういう活動を?」とお尋ねすると,「文献からの知識は表面的なもので,真実を解き明かすものではない。大切なのは真実を見極める視点。それを教えてくれるのは行動」とおっしゃった。
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