連載 わが憧れの老い・6
モリー先生 天職を全うしたすがすがしい老い
服部 祥子
1
1大阪人間科学大学
pp.242-246
発行日 2007年3月15日
Published Date 2007/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688100415
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すべてに時がある―モリー先生の充足の最後
昨年の秋から冬にかけての冷え込みは大幅に遅れた。わが家の庭の中央に立つケヤキは例年よりも時間をかけてゆっくりと身にまとった衣装の色を変えていった。そして晩秋のある日,一陣の風に吹かれてたくさんの葉があっさり散り,野分の翌朝には葉の数は一気に減った。次にきた時雨の中でさらに多くの葉が枝を離れた。しかし初冬の木枯らしの後にも,天に向かって伸び上がっているこずえの上や,こんもりとした下の枝には,幾つもの葉が残っていた。風が吹き抜ける都度,細い枝々はパントマイムを踊るようにしなり,揺れ,それに合わせて葉たちも小刻みに身を振るわせ,きりきりと舞い,あるものは風に乗って離れていき,あるものはぴったりと枝に身を寄り添わせている。
そして12月のある昼下がり,偶然私の見ている目の前で,最後の葉が散った。さして強くないおだやかな風がただ一吹き,そよりと吹いたその時,残っていた葉がゆっくりと枝から飛び立ち,木の根元に静かに舞い降りたのである。私はある種の感嘆を覚えて,それを眺めた。
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