連載 わが憧れの老い・4
ヘルマン・ヘッセ 心の葛藤を闘い抜いた老い
服部 祥子
1
1大阪人間科学大学
pp.70-75
発行日 2007年1月15日
Published Date 2007/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688100381
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ヘッセの顔―たとえようのない含蓄
ヘルマン・ヘッセ(1877~1962)は,かつて日本でもっとも人気の高いドイツ文学者だった。彼の初期の作品である『郷愁』,自伝小説と言われる『車輪の下』など,私のまわりにもヘッセ・ファンは多い。その後文学書離れの影響もあってか,次第に顧みられなくなり,ヘッセの名を知っている人が少なくなった。
ところが近年,再びヘッセが読まれ始め,書店の棚にはヘッセの文庫や単行本が何冊も並んでいる。その背景には,翻訳した高橋健二,優れた評伝を綴ったラルフ・フリードマン,ヘッセの遺稿・書簡を丹念に整理・編集して世に送り出したフォルカー・ミヒェルス,また膨大な数の手紙の翻訳に力を注いだヘルマン・ヘッセ研究会等の力によるところが大きい。しかし最大の理由は,物質文明の果てのような現代社会にあって,多くの人が意識的無意識的によく生きることや真の生きがいを探し求めており,ヘッセの思想や言葉にめぐり合い,心の癒しや深い共感を覚えているからではないかと思う。
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