連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・112
疎外された少女に心の雪解けが
柳田 邦男
pp.852-853
発行日 2015年9月10日
Published Date 2015/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686200283
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個性がくっきりと表現されている絵というものは,絵画であれ,絵本の絵であれ,1度見ると忘れないものだ。絵本の絵であっても,線の動き,色づかい,構図,モチーフの描き方,忍ばせたテーマなどが複合して,1頁の絵が物語の1シーンになっている。最近は,人物にしろ動物にしろ,風物にしろ,写生画的に描くのでなく,グラフィック・デザイン的あるいはイラスト的な描き方を導入して,目に見えない心理の世界まで表現する手法が目立つようになっている。
最近邦訳されたカナダの絵本『ジェーンとキツネとわたし』を手に取って表紙絵を見たとき,すぐに《この絵のタッチ,もしかしたらあの人じゃないか》と感じた。本誌5月号のこの連載で詳しく紹介した絵本『きょうは,おおかみ』の絵を描いたイザベル・アルスノーさんのことだ。少女期の不安定な精神状態とそこに一筋の光をもたらすものについて,彼女の絵は物語の言葉以上に複雑で奥深いものを表現していたので,イラスト的な絵画の手法にはこんな可能性があるのかと,私は驚嘆したのだ。
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