新連載 工学分野から見た医療・看護のリスク管理・1
人間工学的アプローチとリスク管理
伊藤 謙治
1
1東京工業大学大学院 社会理工学研究科経営工学
pp.365-370
発行日 2003年5月10日
Published Date 2003/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100831
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工学的方法論の医療への適用の試み
医療現場のリスク管理がうまくいかないのはなぜか
現在,医療事故の問題がマスコミの報道などにより社会的に大きく取り上げられている。このような医療事故に対する専門的(医療従事者に対して),そして社会的な関心を惹く発端になったものの1つが,現在ではあまりにも有名になった米国でのIOM(Institute of Medicine)の報告である1)。この報告書では,米国全体において医療ミスによる病院での死亡者は,少なく見積もっても毎年4万4000人,最悪だと9万8000人に上るという医療リスクの数値が推計され,各方面に大きなセンセーションを巻き起こした。この比率がわが国の医療現場で適用できるかは別として,日本においても同様に「患者安全」(patient safety)に対する取り組みの重要性が示唆された。
このような調査報告,そして実際の医療や看護の現場(以下,「医療」という用語を「看護」を含めた意味で使用する)における自発的な問題提起が契機になって,現在では患者安全に対するさまざまな取り組みが行なわれている。しかしながら,病院のリスク管理の責任者,あるいは各部門の管理者によると,それらが必ずしもうまくいっていない,あるいはまだ十分でないという意見もよく耳にする。このような医療現場におけるリスク管理の実態はどのようなものであろうか。そして,そこではどのような問題点があるのだろうか。さらに,これらの問題点を解決するためにどのようなアプローチやアイデアがあるのだろうか。
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