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はじめに
ここ数年,患者の権利意識が高まるなか,患者や家族による看護師への暴言や暴力が増加し,その実態把握と対応に関する関心が高まっている。患者や家族からの暴言や暴力が看護師にもたらすダメージは大きく,積極的なケアの提供が行なわれにくくなり,患者はより良い看護の提供を受けることができなくなる可能性がある。また看護師が患者や家族から暴言や暴力を受けることにより,個人の尊厳が脅かされ,時には心理的ショックから病気となることも少なくない。
英国のHome Office(わが国の警察庁に相当)が行なった英国犯罪調査の中から職種別バイオレンス被害の状況(2002~2003)をまとめたものによると,「警察官・消防士・刑務所職員」の15.6%についで「看護師・社会福祉関連職種」が5.6%と2番目に高い職種に挙がっている。これに比して「医師・薬剤師」は3.7%と5番目であるが,看護師の半分以下の被害率であった1)。
わが国の状況についても,2002(平成14)年に日本看護協会が実施した全国の病院の保安体制に関する調査の結果によれば,保健・医療・福祉施設に勤務する看護職員で「過去1年間患者からの暴力被害にあった」と回答した者が3割を超えた。また,2003(平成15)年に行なわれた保健医療分野における職場の実態調査では,職員に対する暴力行為(身体的暴行・脅迫・威嚇の意図のある暴言など)の増加が指摘されている2)。さらに,2003年の看護師が被害となった4件(1件は死亡,3件は重傷)の痛ましい事件は記憶に新しい。
医療機関において暴言や暴力を受けるのは,大半が看護師である。看護師のストレスに関する研究結果から最も強いストレッサーは患者や家族への対応に関するもので,患者や家族からの苦情・暴言・暴力であったことが報告されている3)。また,ここ数年看護系雑誌や研修会においても,第一線の医療現場で勤務する看護師が患者や家族から暴言や暴力を受けるケースの実態・深刻さが増していることが取り上げられている4)。
従来,病院における安全や安心は患者にとってのものである。そのためにもヘルスケアの行なわれる場で働く職員,とりわけ365日24時間直接対応する看護師の安全や安心を保証する職場づくりが求められる。
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