看護学教員のロールモデル行動に関する研究—ファカルティ・ディベロップメントの指標の探求

Role Model Behaviors of Nursing Faculty: A Search of Indicators for Faculty Development

緒言

　わが国の大学においては，1998年頃より「教員としてより良くなる」ことを助ける教育，すなわちファカルティ・ディベロップメントの必要性が提唱されるようになった（大学審議会，1998）。「また，看護職養成教育の高等教育化は急速に進み，一般大学と同様に看護系大学におけるファカルティ・ディベロップメントも必要不可欠である。しかし，ファカルティ・ディベロップメントに向け，「教員としてより良くなる」すなわち「教員としてより良い状態」がどのような状態であるのかは明らかにされていない。

　ロールモデルとは，人間が何らかの社会的役割を果たすために，見習いたいと知覚する行動や態度を示す人物である。人間は，ロールモデルが示す行動に共感し同一化を試みながら，職業活動をはじめとする社会的活動に必要な行動や態度を修得する。また，いったん修得したロールモデル行動の効果は恒久的であり，ロールモデル行動の教育的活用は，特に専門職教育に向け，重要な機能を果たす。1982年から2000年までの19年間に発表された文献を検索した結果，ロールモデルに関しては，観察者の知覚の差異（Wiseman，1994；AI-Kandari，1991；田中，1998），影響要因（坂本ら，1998；本郷ら，1999，2000；Langridge ＆ Hauck，1998）や学習効果（Grossman，Wheeler ＆ Lippman，1998；Driggers，Nussbaum，＆ Haddock，1993；Tilley ＆ Chambers，1994；Nelms，Jone ＆ Gray，1993；Pfeil，1997；Davies，1993），教員のロールモデル行動に対する学生の知覚（本郷ら，1999，2000；松田ら，2000）など17件の研究が存在することを確認した。しかし，看護学教員が知覚する教員のロールモデル行動を解明した研究は，皆無であった，看護学教員が，他の教員のどのような行動に着目しロールモデルとしているのかを明らかにすることができれば，看護系大学におけるファカルティ・ディベロップメントのプログラム立案に向けた知識基盤となる可能性がある。それは，解明されるロールモデル行動が他の教員にとって見習いたい行動であることに起因する。教員が見習いたい行動とは，「教員としてより良い」状態を意味し，これは，「教員としてより良くなる」ことを助けるファカルティ・ディベロップメントの目標と合致する。

　The purpose of this research is to clarify how nursing faculty perceive other faculties' behaviors as role models and the characteristics of such behaviors, and to discuss the utilization possibility of the research results for nursing faculty development.

　Questionnaires were mailed to nursing faculty who agreed to participate in this research. Participants were full-time faculty at baccalaureate nursing program, associate degree nursing programs and diploma nursing schools in Japan. Among 821 responses received, 241 which described their superiors or colleague as role models were analyzed by Berelson's content analysis method. Of the resulting 48 categories of role model behaviors, 8 were isolated as specific characteristics. The agreement rates calculated by the formula of W. A. Scott were over 70%. therefore the reliability of these 48 categories were confirmed. Results suggest that six of these eight characteristics are feasible to be used as viable indicator for nursing faculty development.