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はじめに
臨床で日々記録される医療情報,すなわち既存データを研究目的で2次利用する取り組みは,近年ますます注目されています。自然言語処理や人工知能の話題をはじめ,大量のデータを処理する研究の話題が日常に溢れています。医療分野では,とくに診断や予測に関する研究等,心が躍るワクワクするニュース(例:The Media AI Times註1)がたくさんあります。
看護学や隣接する学問領域においても,既存の医療情報を活用した研究は行われていますが,越えなければならないハードルがあるように思います。その背景として,生活や療養,ケアやそのアウトカムに関しては,客観的な定量化が容易ではないことや,データの標準化,2次利用するデータ解析の難しさ等が考えられます。このような課題に向き合うべく,筆者は,既存データを使った研究の経験があるヘルスサービスリサーチ,医療情報,生物統計学等の専門家の先生方とともに,訪問看護ステーション・電子カルテベンダー・大学による多機関共同研究のプロジェクトに取り組むことになりました。
このように複数の専門家が集まって共同研究を進めるときに大切なのは,共通のゴールに向かって,それぞれの専門性を「統合する」こと〔Cook & Hilton(eds), Committee on the Science of Team Science et al., 2015〕だと感じます。そのためには,自分の専門外のことも,互いに共通理解を図るための最低限の知識が求められます。
そこで本特集では,様々な専門家と連携しながら「臨床で日々記録される医療情報,既存のデータを研究目的で2次利用する」ためのプロセスを可視化し,2次利用するためのロードマップを描くために必要な考え方や専門知識,また実際の研究事例を紹介します。
特集の構成としては,まず本稿で「既存データの2次利用に関する研究」を概観し,以降各論として,各分野の専門家の皆様に詳細な解説をお願いしました。現代のChatGPTをはじめとしたAIの時代であっても,「何を読めば欲しい情報にたどり着けるのか,見当がつかない!」といったことは多々あるかと思います。その意味でも,各分野の専門家による本特集の解説はとても意義が大きいと考えています。特集で紹介するのはあくまでも筆者らの1つの研究例ですが,同じように既存のデータを利用する様々な研究において,ステークホルダーや専門家等と連携する際の準備,また研究プロジェクト全体の見通しを立てるための一助となれば幸いです。
なお,本特集は筆者が携わっている訪問看護ステーションの事例を念頭においていますが,利用するデータや組織(訪問看護ステーション,医療機関等)の違いによらず共通する骨子を概観できるよう意識しました。読者の皆様それぞれが関心のあるデータに置き換えた形で,読み進めていただければ幸いです。
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