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はじめに
「今後急速に進む超高齢・人口減少社会」と「科学技術・イノベーション推進」という社会の2大課題と,それに応じた医療・介護提供体制の変革の流れを踏まえ,我々看護学研究者には,産業界やヘルスケア領域(医療分野と介護分野)や行政の動きを読み,その動きにあわせて,産学連携研究を進めていくことが期待されていると近年強く感じている。
これら社会情勢を受けて,看護学研究者にはその役割として,病院,施設,在宅の場で過ごすケアの対象者に対しても,予防から看取りまですべてのステージにある対象者に対しても,すなわちすべての対象者が豊かに暮らし,最期まで尊厳を保って過ごせるように,医療と生活の側面からどのように支えていけるか,そして,そのために科学技術をどううまく活用できるかについて,看護学という視点から考えていくことが求められていると考える。看護におけるイノベーション研究が増えることで,看護が社会ニーズに応え,より大きく貢献できることにつながると考えている。
筆者は2017〜2020年まで,前任の大阪大学で,看護教員5名と大学院生5名,企業担当者3名の計10数人をメンバーとした産学連携研究を進めた。産学連携研究に取り組んで現在6年目になるが,振り返ると,最初のこの3年間は新たな世界や環境に飛び込むことを意味し,山あり谷ありの経験であった。この経験を研究メンバーと重ねることで,「企業の譲れないもの(価値観)は何か」「それを踏まえた上で,どうしたら企業とwin-winの関係を築けるか」「産学連携研究を企業と行うために,大学内にある産学連携部門や他分野の研究者の力をどのように借りていけばよいか」「貴重な研究フィールドとなる現場の看護職を含む実践者と,どのように向き合い,協力をしてもらい続けるか」というような視点から多様な経験を積み,その過程で,「どこが壁で,どこが地雷か」などのポイントも,少しずつわかるようになってきた。
現任の東京医科歯科大学では,現在2つの企業と,看取り支援IoTの開発研究,ならびにレセプトデータを用いた最適ケアの提案研究というそれぞれのテーマで産学連携研究を展開しており,上記の最初の3年間の研究経験が,大きく役立っている。
我々が実践から閃く「患者さんの苦痛や悩みは,こうしたら軽減できるのではないか?」「患者さんの生活のこの部分を早めに察知できれば,疾患由来の問題発生を前もって防げるのではないか?」などの素朴なアイディアが,産学連携研究の実施というアクションにつながり,それが製品開発や仕組み開発へと拡張し,そしてより多くの人々への成果の普及という社会実装へと展開することで,看護学の社会ニーズへの貢献,ひいては日本の経済効果への寄与につながると考える。
このたび本誌で,大阪大学時代のメンバーで苦労して培ってきた経験と成果を紹介する場として特集を企画した。本稿ではその総論として,前半で科学技術・イノベーション関連の最新の政策動向を紹介し,後半では産学連携研究を進めるための自身の経験について紹介する。本特集が,産学連携研究に取り組む看護学研究者と看護実践者が増えていくための一助となれば幸いである。
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