書評
自分自身の方法としてM-GTAを獲得する
西村 ユミ
1
1東京都立大学大学院人間健康科学研究科看護科学域
pp.370-371
発行日 2021年8月15日
Published Date 2021/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681201906
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本書は,M-GTAの「定本」とある通り,著者である木下氏がオリジナル版GTAに触発され,30年にわたる試行錯誤を経て到達した決定版である。また,「M-GTAを論ずることは質的研究を論ずること」と謳い,質的研究固有の人間観と理論的基盤をもとに方法論を構築した斬新な書籍である。
定本とされる理由は,本書の構成が物語っている。4部構成のPart1では,M-GTAの基本特性と方法論的基盤について,オリジナル版GTAからいかに抜本的に再編成したのかが,その根拠とともに説得的に論じられる。Part2では,分析方法と分析プロセスが詳細に説明されるが,単なる手順ではない。例えば,GTAは参加観察による調査から構築されたが,現在,多くのGTA研究はインタビューをデータとする。両者のデータの質の違いを根拠に,データの性質に応じた方法論が再構成され説明される。Part3では,学習方法としてのグループワークの仕方が提案される。グループでの学習は質的研究には不可欠であり,すでに行なわれているであろうが,そこで何が起こり得るのかが分析されることで,意義が明確になる。最後のPart4では,視点を“領域化”した質的研究に向け,コーディングや査読のあり方,批判的実在論との関係からM-GTAの可能性が検討される。
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