書評
すべての大学院生と教員に薦める—看護系大学院のゼミの神髄と価値
遠藤 俊子
1
1関西国際大学保健医療学部看護学科
pp.71
発行日 2020年2月15日
Published Date 2020/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681201718
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編著者である佐藤紀子氏とは,初めての出会いからかれこれ50年になろうとする年月が経っていることに感動を覚えながら読んだ。1970年代の安保闘争や沖縄返還の時代に,私達は看護基礎教育を受け,看護師人生が始まった。そして,定年までの14年間に佐藤氏は「看護生涯発達学」領域を創設し,多くの看護職と出会い,まさに劈くに至った看護のフィロソフィーをここに表現したといえる。本書は,彼女の生きられた体験の蓄積であり,経験化された証であろう。43人の大学院生を輩出した佐藤ゼミが醸成した「臨床の知」をこのように具体的に書くことで,看護実践や教育の神髄を読み手に波及できていることを心から尊敬する。
看護師が大学院で学ぼうとする動機はそれぞれであるが,その多くが現実の看護に悩み,もがき,もっと良い看護を実践したいと思ったとき,研究という手法で何とか切り拓きたいと進学してくる。ところが,いざ研究課題の絞り込みになると,自分が何をしたかったのか怪しくなる。研究を仕上げるには,この問いを避けては通れない。先行研究,自問自答,仲間や指導教員の助言……多くのプロセスを経て,自分の扉を開いていく。このプロセスこそが大学院修士課程の入り口では重要であり,ゼミで教員や院生との対話を重ね,深め,納得していく,自分の研究課題への取り込みこそが肝になるであろう。佐藤ゼミで修士論文,博士論文を仕上げた多くの修了生が,苦しかったけれど,大きな収穫を得たことを本書で具体的に記載している。
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