焦点 事例研究と仮説
私論
事例研究における仮説重視の問題点
木場 冨喜
1
1熊本大学教育学部
pp.5-10
発行日 1980年1月15日
Published Date 1980/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681200600
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はじめに
このテーマが設定された理由の一つは,「少なくとも研究という以上,まず仮説がたてられそれを検証してゆくというプロセスが含まれるはずであるが,事例研究の領域では,この点が明確にされていないのではないか」ということのようである。考えてみると,このようなとらえ方自体に問題はないのか,という疑問も出てくる。
看護界において,事例研究ということは,多くのところでいろいろな方法で行われている。たとえば現場において経験した看護の事例を検討したり,それをまとめて発表したりすることもその一つである。また教育の場における学習や,実践のための訓練としても,事例研究の方法がとられる場合が多い。事例研究といういい方についても,そのほかに,事例検討とか,ケアスタディ,ケーススタディなどいろいろの用語が使われている。日本看護学会においても,毎年発表されている演題の中で,事例研究として発表されているものは非常に多く,毎回約半数を占めている1)。看護において事例研究といえば,ふつう患者に対する看護の個別な事例をさしていることが多い。しかし事例とかケースとかいう場合,単に患者の問題のみを意味するわけではない。たとえば,ベッドに関する問題でも,病室環境に関する問題でも事例である。もちろん看護の中心をなすものは,対象となる人間であることはいうまでもないことである。
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