- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
I.はじめに
終末期に限らず,病いがもたらす人の苦しみに寄り添い,その苦しみを和らげるという緩和ケアの目的を実現させていくことは容易ではない。実践の場では目前の患者の苦しみを和らげるために,普遍的な知識や理論を下敷きにしつつ,個々の患者や家族に即した看護行為を個別の文脈において生み出すことが必要となる。看護師は,そのような看護をどうやって生み出しているのだろうか。このような疑問から,池川(2009)の言う「為すことに含まれる知」と表現される実践知への関心をもった。「個別な状況にかかわる知」(家高,2013b)は,看護師たちの実践の中に埋められている。そこで,これまで取り組まれた実践知に関する研究(西村,2011;正木監修,黒田,瀬戸,清水編,2007;佐藤,2007)を参考に,緩和ケアに関する実践知に接近したいと考え,看護師の語りを聞いた。
今回は,急性期病棟での緩和ケアを語ったAさんの語りに注目する。急性期病棟で緩和ケアが実践される場合,看護師のストレス(大堀,有賀,高宮,佐藤,2004)が強いなど,実践の難しさが報告されている。特に終末期ケアの困難さは,看護師の世代や経験年数によっても異なる(西脇,小松,竹内,2011)との報告もある。苦痛や死への援助は,看護師の経験によっても実践の生み出され方が異なってくるだろう。新人や中堅看護師などが混在する急性期病棟で,看護師たちはどのように緩和ケアを展開しているのか。看護の難しさだけでなく,困難な状況の中で看護師たちはその実践を展開しているだろう。このような実践の知に接近できれば,これからも増えていくだろう急性期病棟での緩和ケアのあり方を考える一助にできるのはないかと考えた。
Copyright © 2014, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.