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はじめに
日本の看護師が臨床現場で用いる言語表現を聞くと,「一般的な日本語と少し違うなあ」という印象をもつことがある。彼らも他の職種と協働作業をしようとしたとき,議論がしっくり噛み合わないと感じることもあるようだ。看護師が用いる言語には,オノマトペが豊富に含まれている。看護師によるそうした言語表現に対して批判的な評価もあるように聞く。しかし,あれほど難しい職務の中で,100年余にわたって積み上げられてきた言語表現を,「科学」といういわば超越的な視点から否定するという姿勢には賛同できない。もし,これらの看護師による言語表現が無意味なジャーゴン(jargon;部外者にはわからない難解な表現)であったなら,とうの昔に医療の現場で淘汰されているはずだ。しかし,医療の現場はエキスパートたちによって維持され,彼らはいわゆる「看護師語」を使っている。
日本の輸出産業を先導している自動車工業会は,技術者が用いるオノマトペの重要性に着目した数少ない先進工業会でもある。たくさんの智(knowledge)が凝集されたオノマトペで表記された機械音を編纂し,それらを会員各社の技術者にCD配布している。自動車工業会が構築した方法論,研究成果を参照しつつ筆者ら(服部,東山,2010)は,日本人看護師が用いるオノマトペの中にもたくさんの暗黙知が隠されていると主張した。オノマトペは客観的でなく使用は避けるべきだとする著名な医療専門家の批判にもかかわらず,経験を積んだ看護師が用いるオノマトペには重要な意味が込められていたし,認知科学的に裏づけることもできた。今回,筆者らは,日本の看護師が用いる看護記述や表現の中には大量のメタファー(metaphor)が含まれていて,そこに重要なメッセージが隠されていることを提起する。
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