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はじめに
看護系学会の数が増えている。「日本看護系学会協議会」に2011年11月30日現在登録している学会の数は38であるが,この協議会がすべての学会を網羅しているとはいえないので,実際のところ正確な数はわからない。おそらく,全くのあてずっぽうだが50~100の間だと思う。そして,それぞれの学会は,その冠に掲げた看護学または医療分野の看護に関する論文を公表するための学術雑誌を年に1回以上,あるいは3,4回刊行している。こういった背景から見積もると,実に膨大な数の看護系論文が公表されていることになる。これらの看護系論文は,看護学の発展に寄与し,そのことによって人々の健康に貢献するというのがその目的であるが,同時に発表者のキャリアアップにも大いに寄与することを,私たちは経験的に知っている。
かつて,鷲田小彌太(1991)は『大学教授になる方法』のなかで,看護系短期大学の教員は短期大学もしくは専門学校の卒業者であり,「短期大学が四年制大学の教授になるステップの役割を果たすこともよくある」(p.97)ことを指摘した。短期大学で教授の職に就き,四年制大学への移行に伴って大学教授に着任する道があるということだろう。事実,四年制大学が少ないころは,看護系大学教授になるためには博士号を有することが必須条件ではなかった(正直なところ,中木はこのコースを歩んでいまの地位にいる)。さすがに,こんにちのように看護系大学の数が約200にも上り,大学院修士課程や博士課程も相当程度併設されるようになると,看護大学の講師以上になるにも博士号が要求されるようになってきている。しかも,医学博士ではなく,看護学の学識と研究に与えられる「看護学博士」や「保健学博士」でなくてはならず,研究業績と担当科目とが整合していることが求められる。したがって,看護系大学で,しかるべきポストに就くためには,しっかりした研究業績が必要であり,そのために大学院修士課程や博士課程で研究法を学び,修士論文や博士論文を大学に提出することによって審査を受け,合格した暁には学会誌に投稿することが義務づけられていることも,看護系学会への論文投稿数が増える原因となっている。
さて,学会誌に投稿される論文の末尾には「本論文は○○大学大学院に提出した修士論文(または博士論文)の一部である」と記されていることが多いことからうかがえるように,学会誌に投稿される論文は学位論文を短縮したものである場合が多い。その場合,修士課程や博士課程の指導教員が共同投稿者として記されていることが少なくなく,学生個人の単著として発表されている論文の場合でも,多くは謝辞の部分に修士課程または博士課程の指導教員の氏名があがっているので,指導した教員を知ることは難しいことではない。
論文のスタイルには,その研究者を指導した者の出自(制度的に認知・規定される系譜上の帰属)の特徴が表われやすいため,論文とその研究の指導者とを結びつけて論文を読むと,その指導者自身がどのような論文作成指導を受けてきたかをうかがうことができ,興味深い。このようにして連綿と論文の執筆スタイルが先達から後輩へと受け継がれ,看護学の学的基盤が築かれていくことを思うとき,看護学の発展のためにどのような執筆スタイルが望ましいのか,研究の普及を支えるために研究者と研究指導者,看護系学会ができることは何かを考えるために立ち止まり,考えてみることは意義深い。
そこで本稿では,日本における看護系論文の執筆スタイルの現状について,看護系論文作成の指導者の出自による執筆スタイルの傾向ならびに看護系学会の投稿規定の特徴を踏まえて概観したあと(第I部),看護系論文の執筆スタイルの展望を述べることにする(第II部)。
第I部の1は中木が,第I部の2と第II部は谷津が,主としてアイデアを出して,分担して執筆している。
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