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はじめに
基礎看護技術のなかで,車椅子移乗介助技術は臨地実習において体験する比率が比較的高い看護技術の1つである(荒川ら,2009)。一方,看護学生にとっては,患者と自分自身の体の動きを客観視しなくてはならない技術であり,習得が難しい技術である。車椅子移乗介助技術の教育の難しさの1つには,教科書によって方法がさまざまであるということがある。そして難しさの2つめは,患者の障害や自立度に合わせた援助方法があり,それを看護学生に患者の理解を通して教授する必要があるという点である。
日本における車椅子移乗介護動作の研究では,熟練看護師と看護学生の動作を比較したものがある(杉本ら,2005;水戸ら,1998)が,モデルとなる看護師の動作は見いだせていない。また,看護師の動作分析において,3次元の看護師の動作を2次元の動作として撮影する画像分析では,角度や傾きを正しく測定するために多数のカメラが必要であり,その費用と労力は計り知れない。伊丹(2009)は,ボディメカニクスの学習のためにボディメカニクスチェックシステムを考案し,腰痛予防に効果を得ているが,その装置はまだまだ大がかりで,コードにつながれているものである。
それに対して,筆者らが行なった研究で用いている加速度センサは,3cm台の大きさであり,ワイヤレスで情報を得ることができるため看護師の動作への影響が少ない。また加速度センサはビデオ撮影と併用して用いることによって,一連の車椅子移乗介助動作の,ある時点における3次元的な動きを捉えることが可能であるという利点がある。
看護学生が用いる教科書は多数の出版社から刊行されており,そのどれもが患者の状況に合わせた方法である。多くの教科書は車椅子移乗介助動作を,患者と看護師の一連の動作として記述している。そして教科書の他にも,看護技術の参考書等々は毎年のように発刊されている。学内の講義でそのすべてを教授することは,時間的にも看護学生のレディネスにおいても無理がある。しかし,そのなかには学生が学ぶべき基本原理があるはずであり,そのことが学習効果を上げることにつながるのである。
そこで本稿では,国内の看護基礎教育に広く取り入れられており,代表的と思われる出版社4社の教科書を取り上げ,車椅子移乗介助動作についてそれぞれどのように解説されているかを比較検討し,加速度センサを用いた学習支援システムの構築に向けて,示唆を得ることを試みた。
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