Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
日本の子どもたちの死生観についての系統的な研究はいくつかみられるが(上薗,1996;岡田,1979,1990,2001;佐藤・齋藤,1999;清水,1992;杉本,2001;多田納,1992;仲村,1994;東京都立教育研究所,1983など),1990年代までに小児の生と死の概念に関して70を超える研究発表がなされている英語圏社会と比較すると,非常に少ない。近年の日本社会の特異的状況,すなわち,年少者による凶悪犯罪の増加,引き続くいじめによる子どもの自殺,父親の世代にあたる中高年層の自殺率の急上昇などを鑑みると,現代の日本の学童たちが生と死についてどのような考えや思いを抱いているかについての調査は急務である。さらに小児看護においては,子どもがどのように自分の状況をみつめているのかということへの理解が不可欠であり,その見方は児1人1人が把握している生と死の意味と深く結びついているゆえ,子どもたちへのターミナルケア,グリーフケア,デスエデュケーションなどの看護実践において,子どもたちが抱いている生と死の概念の研究は非常に意味がある。
しかし,1990年代までの日本語・英語圏において発表された小児の死の概念についての諸研究が,その概念枠組みとしてピアジェの認知発達理論に過度に依存しており,かつその認知発達段階を子どもの死の概念の発達段階に“そのまま”当てはめている傾向がSpeece & Brentによって指摘されている(1987,1996)。本論文では,その指摘を受け以下の点について検証し,子どもの生と死の概念に関する看護研究における今後の方向性を提示することを目的とする。すなわち,
1)ピアジェの認知発達理論を小児の死の概念研究の枠組みとして用いる根拠とは?
2)認知理論を形式的に当てはめたアプローチが小児の生と死の概念研究において発見した点,また見落としている点とは?
3)小児の生と死の日常的な理解について探求するための新たな方法論とその可能性とは?
である。
まずはじめに,認知発達モデルについてのピアジェの理論的主張と小児の抱く死の概念への関連性とを検証する。
This paper highlights the issues of the overreliance on Piagetian cognitive theory by existing research on children's notion of death. However, the in-depth review of Piaget's most cited theoretical writings reveals that Piaget did not deal with children's death conceptions or make any connection between children's cognitive development and their concept of death. Moreover, among contemporary studies, the issues of either the scarcity of theoretical rationales or overdependence on Piaget's theory followed by the inconsistency of the findings are reviewed. Finally, phenomenology is introduced as a new philosophical underpinning and methodology to investigate children's understanding of life and death.
Copyright © 2004, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.