連載 ウイルスの一生で理解する遺伝子の最新基礎知識【2】
宿主細胞への吸着・侵入―「体質」とオーダーメード医療
佐藤 聡
1
1University of Cambridge, Centre for Protein Engineering
pp.165-172
発行日 2005年4月1日
Published Date 2005/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681100054
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はじめに
ここイギリスの生命科学の研究室では,世界から集まってきた科学者がそれぞれのテーマに沿って研究を行なっています。さまざまな文化的価値背景をもつ人たちと一緒に仕事をすることは,とてもよい刺激になります。
先日は進化論について,イタリア人のステファノとギリシャ人のミリアが白熱した議論を繰り広げていました。カトリック信者であるステファノは,進化論の大まかなところは認めながらも,進化論では生命の誕生が説明できないことを指摘し,あくまでも神の存在を擁護します。確かに,進化論は現在の生物の成り立ちを合理的に説明しますが,一番最初の生命がどのようにして生まれたかについては何も語りません。一方,無神論者であるミリアは,天地創造から終末に至るまでの直線的な歴史世界観はキリスト教的な価値基準であり,それを無批判に現実に反映させていいのだろうかと批判します。「始まり」を規定することは,同時にその「始まり」以前を示唆することになり,それが何もない,つまり無であるという考えは,ミリアにとっては受け入れがたいようでした。彼女の歴史世界観は直線的というより,円に近いのかもしれません。このように科学論議が哲学的になるのも,歴史的にみて科学が哲学の一部として展開してきたことを考えると,うなずけるものがあります。一般的に客観的といわれる科学研究も,こうした研究者個人の価値観や世界観の影響から逃れられないといえるのかもしれません。
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