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はじめに
産科医療補償制度の再発防止に関する報告書では,超緊急対応を要する妊産婦緊急疾患[常位胎盤早期剝離(以下,早剝)・臍帯脱出・子宮破裂・産後大出血・妊婦の意識障害]は,母体蘇生をできる限り迅速に行い,児娩出までをいかに短縮できるかが重要であるとし,各地域の院内整備や搬送体制の構築を最優先事項に挙げている1)。また,妊産婦死亡の約50%が防ぎ得たとされており,医療システムや情報の不備が影響を与えているという2)。本邦では,周産期医療施設が点在しているにも関わらず,緊急搬送を要する妊婦の情報共有を補うシステムが存在しない。その対策としてわれわれは,暗号化されたインターネット回線を利用して妊産婦の情報共有を効果的・効率的に行い,緊急搬送をサポートするための搬送補助システムを発案し「iPicss®(アイピクス)」と名付けた。iPicssは,パイロットスタディで実地運用につながる結果を得た後,2018〜2020年度の地域医療介護総合確保基金(医療分)を用いて,2019年5月7日より岡山県の全分娩取り扱い施設で導入されている。
近年,各分娩取り扱い施設からの周産期関連の搬送に関し,救急隊との情報連携方法が存在しないため,超緊急搬送事例において,救急隊が行う搬送対応に時間がかかるという話題が散見される。
岡山県(以下,当県)では円滑な患者(母体と児)の搬送と病院間連携を目指すため,搬送元・搬送受入施設に加え,消防本部や出動する救急隊共にiPicssを用いて情報共有を行う方針として,来年度からのシステム運用の拡大に向け協議中である。
また,災害時に分娩取り扱い施設から当県小児周産期リエゾンへ被災状況を報告するシステムの構築も必要であり,この部分にiPicssを流用し連携することにも取り組んでいる。2019年9月28日,当県北部(津山市)を震源域とする地震を想定した訓練を実施した。本稿では訓練を通して見えた課題についても報告する。
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