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はじめに
ドメスティック・バイオレンス(以下,DV)は,女性と子どもの健康に深刻な影響を及ぼす公衆衛生の問題として世界的に認識されるようになっている。日本の最近の全国調査によると,成人女性の4人に1人は夫から身体的な暴力を受けた経験があり,6人に1人が精神的な嫌がらせや恐怖を感じるような脅迫を受けたことがあることが報告されている1)。周産期のDVは,少なくとも妊婦の約5%にみられ2),母親の心身社会的な健康のみならず,低出生体重児,胎児ジストレスなど胎児への影響も大きく3),子どもの虐待との関係も指摘されている4)。さらに,妊娠がDVのきっかけとなったり,妊娠中は暴力が悪化することも危惧されている。
2001年に施行された「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」は,配偶者からの暴力に係る通報,相談,保護,自立支援などの体制を整備し,配偶者からの暴力の防止および被害者の保護を図ることを目的とする法律である。法律には,医療従事者を含め関係者への研修の実施,医療従事者の被害者発見時の通報と被害者への情報提供について規定されているが,実際の医療現場では被害者の支援体制の確立には未だ至らない現状がある。
聖路加看護大学の女性を中心にしたケア研究班は,2004年3月「EBMの手法による周産期ドメスティック・バイオレンスの支援ガイドライン(写真1)」(以下,DVガイドライン)を作成した。このDVガイドラインは,医療施設におけるDV被害女性への支援のプロトコルを示したものである。
われわれは,DVガイドラインを基盤に,NTT東日本関東病院(病床数655床)の産婦人科病棟(月平均分娩数約60件/助産師26名)でDV防止への取り組みをスタートさせた。
この取り組みは,さまざまな障壁にぶつかり容易なものではなかった。しかし,1つひとつ問題を解決し,病院の状況にあわせて工夫しながら取り組みを進めていった。本報告では,その取り組みについて紹介し,今後DV防止のための取り組みを始める施設のために役立てていただければと考える。このDVガイドラインは,Mindsホームページ(https://minds.jcqhc.or.jp/)で公開されている。
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