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はじめに
昭和40年,母子保健法が制定されて以来妊娠初期から分娩に至るまでの間,計12~13回の定期妊婦健診を受けることが望ましいと推進されている。しかし,定期健診を受けないまま陣痛開始と同時に入院・分娩に至る事例が報告されている。
妊婦健診未受診分娩は飛び込み分娩と同義に使われることが多いが,厳密にいえば,飛び込み分娩には妊婦健診を受けていて急な分娩も含まれる。その頻度については全国的な実態調査は行なわれておらず,病院や地域ごとに報告されているに過ぎない。最近の報告によれば,6年間で総分娩数2,473例中25例1),年2~3例2),5年間で75例のうち日本人の飛び込み分娩率が1.3%3),7年9か月総分娩数1,766例中14例4)などであり,飛び込み分娩率は1%前後といえよう。
こうした未受診分娩の原因について田中ら5)は,若年妊娠・多産婦・未婚者・離婚者が多く,経済的問題や母性意識の欠如,支援者不足などと複雑に因子が絡み合うことを述べ,廣丈ら6)は,社会資源の情報が得られず活用方法を知らないまま分娩に至ることもあるとしている。このような要因であれば,分娩後も母子の生活に関与し,支援することが必要だろう。
本論で紹介するゆうこさん(仮名)は,貧困を理由に,妊娠を知りつつ未受診の分娩を繰り返してきた。それだけでなく多産のうえに,前回の分娩は帝王切開でもあり,分娩リスクは高い。保健師や家庭相談員がそれぞれかかわっており,保健指導や家庭訪問が行なわれているのに,なぜハイリスクの妊娠・分娩を繰り返すのか。医療者としては,ゆうこさんが異常なく分娩を遂行できるように援助するだけでなく,保健・医療・福祉の専門職が連携してかかわる必要があると考え,各職に呼びかけた。そして,ゆうこさんから事情を話してもらうとともに,専門職間で情報交換と必要な支援策を練った。この経過を紹介し,保健・医療・福祉専門職連携の重要性について考察を加えたい。
なお,ゆうこさんには,入院時のかかわりについて振り返り,考えたことを専門雑誌に公開する意向があることと,その際の匿名性について口頭で説明し,原稿を示して了解を得た。また,ゆうこさんにともにかかわった保健・福祉専門職者に対しても研究者の意思を口頭で伝え,了承してもらった。
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