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はじめに
2019年度より「風しんの追加的対策」が行われています。制度の狭間から、1962年4月2日〜1979年4月1日生まれ(2023年度に44〜61歳)の日本人男性は風しんの公的接種の対象から外れてきました。この年代の男性の抗体保有率は女性や他年代の男性より低くなっており、そのために、日本は先進国では珍しく、風しんの集団免疫をまだ獲得できていません。
厚生労働省は、対象年代の男性が抗体を持っているかを確認して、抗体を持っていない人のワクチン接種を促す目的で、風しんの抗体検査(約5000円)とワクチン接種(約9500円)を無料で受けられるクーポン券を発行して、市区町村を通じて郵送する施策を2019年度にスタートさせました。
ここで皆さんに、一つ質問です。「皆さんの住む(働く)市区町村は、目標の風しん抗体保有率を達成していますか?」。多くの自治体で、答えはNOのはずです。対象年代の男性の抗体保有率は元々80%程で、これを90%まで引き上げることがひとまずの目標です。平均的に抗体検査を受けた人の2割が抗体を持たず、ワクチン接種を受けて新しく抗体を獲得することになります。したがって、元々の抗体保有率に10%加算するためには、対象年代の男性の5割に抗体検査を受けてもらう必要があります(5割のうちの2割〔10%〕がワクチン接種で新しく抗体を獲得する)。
しかしながら、2019〜2022年度の4年間の受検率は3割弱程度と言われています。抗体検査やワクチン接種を無料とする施策が終了する2024年度末までの2年間で、さらに2割強の人たちに抗体検査を受けてもらわないと受検率5割には届きません。
さらに皆さんに、もう一つ質問です。「皆さんの住む(働く)市区町村は、2023年度もクーポン券を郵送していますか?」。答えはさまざまだと思いますが、もうクーポン券の郵送は行っていないという自治体もあるはずです。2020年度以降は新型コロナウイルスの対応で手一杯で、風しんの追加的対策の優先順位が実質的に下がっていたのかもしれません。しかし、郵送のような能動的な勧奨の機会が減ってしまうと、目標とする抗体検査受検率・ワクチン接種率を達成することは、ますます難しくなってしまいます。
ご存知のように、風しんは成人になってから感染すると、高熱・発疹の長期化や関節痛等が重症化する恐れがあります。また、妊娠初期の女性に感染を広げると、赤ちゃんが先天性心疾患・白内障・難聴を持って生まれる可能性もあるのです。米国のCDC(疾病対策予防センター)は、日本が風しんの集団免疫を獲得しておらず、アウトブレイクが発生しやすい状況であることに対して注意喚起をしており、国際交流にも影響を及ぼす問題です。
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