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はじめに
今成知美
■FASDの予防と対策に関する国際フォーラム開催の背景
胎児性アルコールスペクトラム障害(以下,FASD)とは,妊娠中の母親が摂取したアルコールの影響によって,胎児に先天性疾患として出現するさまざまな障害のことである。その予防と対策に関する国際フォーラムを「平成30年度厚生労働省依存症対策全国拠点機関設置運営事業」として,2018(平成30)年9月15日に開催した(図)。
国立病院機構久里浜医療センターの樋口進院長から特定非営利活動法人ASK(以下,ASK)*に,この「胎児性アルコールスペクトラム障害の予防と対策に関する国際フォーラム」共催の依頼があったのは,2018年春だった。これには経緯がある。15年前の2003(平成15)年11月,ASKが胎児性アルコール症候群(以下,FAS)の国際シンポジウムを主催。樋口院長の協力のもと,米国からエドワード・ライリー博士(研究者)とデボラ・エベンセン氏(支援者)を招いて講演していただき,私たちは初めて,アルコールの胎児への影響のすさまじさを知った。
当時の母子健康手帳には,「妊娠中は飲酒を控えましょう」と表記され,飲酒を減らせばいいと誤解される危険性があった。そこで翌2004(平成16)年2月,ASKは「シンポジウムの報告書」等を添え,厚生労働省に要望書を提出した。その結果,母子健康手帳の表記が「妊娠したら,飲酒をしないようにしましょう」に改定された。
また,酒造酒販団体にも対策を要望。2004年から,容器に「妊娠中や授乳期の飲酒は,胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります」との警告表示が入り,2010(平成22)年からは広告やCMにも「妊娠中や授乳期の飲酒はやめましょう」という文言が入った。この15年間,若い女性の飲酒率が上昇する中で,妊婦の飲酒率が大きく下がったのには,これらの対策が貢献したものと推測できる。
しかし,妊婦の飲酒はゼロではない。また,FASDのハイリスク層への介入,診断,調査も進んでいない。その原因は,FASDは海外の問題と考えられているためではないか。対策を進めるためには,日本に問題が存在するという実感が必要なのだ。
■国内のFASDの現状と課題に関するシンポジウムを設ける
そこで今回の国際フォーラムでは,第1部で海外の研究者や支援者による教育講演を行った後,第2部にシンポジウムを設け,実際に国内でFASDの子どもとその母親を支援した経験を持つ方々に登壇していただくことにした。
幸い,2003年のFASの国際シンポジウムでフロアから発言された長沼豊氏(元福祉施設職員)と連絡が取れ,同氏が連携した女性保護施設長の横田千代子氏や,児童精神科医の井上祐紀氏にも発表をお願いできた。
■FASDの支援における保健師への期待
アルコール依存症などで,妊娠が分かっても飲酒を続ける妊婦さんがいる。また,妊娠に気付く前にたまたま大量飲酒をした人もいるだろう。妊婦健診や乳幼児健診に現われない人々の中に,あるいは乳児院や児童福祉施設で育つ子どもにこの問題が隠れているかもしれない。
保健師さんは,母子保健・育児・虐待防止・障害者支援まで,幅広い領域に関わっている。ぜひともFASDの知識を持って,予防や介入,支援に活かしていただきたい。
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