- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
■ポジティブ心理学とは
ポジティブ心理学とは,人の最適機能に関する科学的研究であり,「何が人・組織・地域を繁栄に導くか」を科学的に探究する心理学のムーブメントである。そして,その探究対象として,「ポジティブ(明るく前向きに物事を捉えること)」が人の行動や身体にどのような影響を与えているかや,「幸せ」を感じるとはどういうことかなどを取り上げ,研究を行い,ここ20年ほどでエビデンスを積み重ねてきた。
近年,わが国でもそのポジティブ心理学への関心が高まっている。「ポジティブ」「幸せ」など,ポジティブ心理学に関連するキーワードがマスメディアにおいて見られることが以前より格段に多くなってきており,関連書籍も圧倒的に増えてきている。
■ポジティブ心理学との出会い
筆者のポジティブ心理学との出会いは,大学院修士課程在学中(2003年)にさかのぼる。きっかけは,筋萎縮性側索硬化症(ALS)の療養者を在宅でケアする家族介護者の方々にインタビュー調査をしたことである。その調査では,介護を行っていて大変なことを伺ったにもかかわらず,「介護のやりがい・幸せ」についての話が返ってきた。そこで,傍から見て大変だと思われる状況においても,本人は幸せを感じていることを知り,「幸せってなんだろう」と思い始めた。この経験は,そのときの論文のテーマを「介護負担感」から,ポジティブな出来事も含まれるように「介護体験」に変えたくらいに,筆者にとっては大きな出来事であった。その時に前立教大学教授の大生定義氏から,「アメリカではポジティブ心理学というのがあるらしいですね」と伺い,興味を持った。
当時はポジティブ心理学に関する日本語の文献は少なく,英語が苦手だった筆者は,一時は学習をあきらめたのだが,その後やはりポジティブ心理学を学びたいという気持ちが捨てられず,悪戦苦闘しながら,アメリカの大学のポジティブ心理学講座をオンラインで受講し,論文や文献を読んで学んだ。
■ポジティブ心理学の看護職への普及を目指して
その後,看護系学会の交流集会等でポジティブ心理学について看護職の考えを聞いてみたところ,「勉強してみたいが,どこで学べばよいのか分からなかった」「日本語に翻訳された文献が少ない」「研修会は高額すぎる」「働きながら学ぶ機会が少ない」との意見があがってきた。やはり自分と同じ思いを抱いている看護職が多かったことが確認できた。そういうわけで,現在はポジティブ心理学の知見を看護職に普及することにも力を入れている。
その一環として,2018年3月3日に,慶應義塾大学日吉キャンパスにおいて,第1回ポジティブ心理学・看護学研究会を開催した。告知が学会でのチラシ配布と大学メーリングリストであったにもかかわらず,当日は約80名の方々にご来場いただき,あらためて看護職の関心の高さを実感した。
筆者自身は,ポジティブ心理学は「超一次予防」につながるものだと思っており,看護職の中でもとりわけ保健師活動に適した知見だと思っている。そこで,本稿では,ポジティブ心理学を紹介するとともに保健師活動における応用の可能性について考えてみたい。
Copyright © 2018, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.