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―『子ども虐待予防の新たなストラテジー』―「予防」のための情報に富む一冊
上別府 圭子
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1東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻家族看護学分野
pp.79
発行日 2010年1月10日
Published Date 2010/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1664101325
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子ども虐待に関しては,早期発見と子どものケアのために,行政,民間,NPOが協力し,保健,福祉,医療,教育,司法,警察などの領域の専門家および一般住民の大量の人的エネルギーが投じられてきた。なかでも市町村保健師の努力と貢献は大きい。その結果この10年で,法的整備や地域のシステム整備,国民の理解は格段に進んだと言ってよいだろう。ところが,児童相談所が受ける子ども虐待の相談件数は増加しつづけ,虐待による死亡件数は横ばいの状態である。次の10年は,多機関・多職種が一丸となって「予防」にエネルギーを投入しなければならないと考えていた矢先に,本書が刊行された。
半世紀にわたり子どもたちの発達を支援してきた著者は,子どもの特徴をplasticity(可塑性)とresilienceという用語で表し,後者に「強靱性」という訳を当てる。子どもがもつ潜在力への確信が,著者の仕事の根底に流れている。また本書の特徴を一言で表すなら,“informative”(有益な情報に富んだ)という形容がぴったりであると評者は思う。たとえば「子ども虐待予防の取り組みの歴史的変遷」や,子どもの発達や親子関係をめぐる種々の理論的枠組みに関する記述,「子どもの『危機的状況』に関する出来事と法制度・施策」の一覧表などは,我々がこのテーマを俯瞰し,自分の立ち位置を確認するとともに目標を見定めることを助けてくれる。
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