連載 意思決定の統計学・3
因果の統計学
松原 望
1
1上智大学外国語学部国際関係副専攻
pp.910-914
発行日 2004年9月1日
Published Date 2004/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1664100578
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「原因」の海に浮かぶ
少年・少女による犯罪が世を驚かせている時代である。事件があまりにも陰惨でショッキングなため,このニュースに接する者は,その原因を短絡的にこの子たちの家庭や両親,学校に求めているようだ。また,いまの教育のあり方に憤慨し,何人かの政治家には,「だから,教育基本法を改正しなくてはならないのだ」と事件に悪乗りして問題をすりかえる面々まで出てくる。
しかし,そもそも「原因を求める」こと自体簡単なことではない。少なくとも水を熱すれば沸騰するとか,止まっている物体に力を加えれば動くなど,きわめてわかりやすい自然現象を除けば,一般の自然科学の分野はもちろん,医療の分野でも「がん」の原因などのように,本当に知りたい原因はわからないものである。突き詰めると,われわれは本当の「原因」がわからないまま,やむをえず事態に対処している,といってよい。それくらい,原因の論議は難しいのである。
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