私の発言
新卒日記
市川 夫佐江
1
1東京衛生病院小児科病棟
pp.269-272
発行日 1980年5月25日
Published Date 1980/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907438
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痛い!痛いよ!
小さな患者さんに,医師から注射の指示が出される.指示された薬液を注射器に準備し,トレイに必要物品をそろえて病室に向かう.4歳の男の子がベッドに横たわり,向こう側を向いている.部屋に入ると,気がついてこちらを向き,患児の目と私の目があう.児は,何かいつもとは違ら雰囲気を感じとり,突然口を開いて.
‘ねえ,ぼく何をするの?それなあに,注射?注射するの? ねえ,看護婦さん……’と,矢継ぎ早にいろいろなことを口走る.熱のためにうるんだ目が,哀願するようにこちらを見つめごいる.幼い坊やの体の中で一瞬のうらに大きくふくれあがった不安が,どんどん広がって波のように私の方へおし寄せてくる.こんなにおびえている子供に注射をしなければならないなんて.でも注射すれば,この子は少しでも楽になる.正確にこの注射をしなくちゃいけない.よし,やらなくちゃ.—心の中で深呼吸をしてから,もう1度児の目を見る.病棟内が忙しいために,今日は手足を抑えていてくれる人がおらず,1人だった.
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