起爆と原点・1
序章
箙 田鶴子
pp.265-268
発行日 1980年4月25日
Published Date 1980/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907437
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一見,どう考えても脈絡のつかないことが,経路を辿れぱ整然・立派に繋(つなが)って源へ着くことがよくある.‘風が吹いたら桶屋が儲る’もその例だが,人間の場合も,表れているものとその原因との間には非常な興味を抱かされることがある.
フォークナーの作品“エミリーの薔薇”の概略は,40年間1人の老僕の外は人を寄せつけず暮らしていた女性が死んで,彼女が40年前に,その家柄に似ず他所から来た男性を好きになったらしく,近所の者の目に映って間もなく男性用の銀の化粧道具や男物衣装一式を街の店へ注文して自宅へ届けさせた夜,その男が彼女宅へ消えるのを同じく近所の人が目にした以後,彼女自身を含め男の一切の消息は広い邸内の奥へ絶たれたまま歳月は流れ去った.途中一度,彼女の家から異様な悪臭がすると近隣の訴えで,警察がその家を捜索したことがあるが何も見い出せず,白髪が混じりかけて鉄色の髪となったエミリーが瞳を凝らして階段に座りこみ,警官の動きを見守っていた.
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