連載 生活空間論 生命のみなもと・1【新連載】
プロローグ
外山 義
1,2
1京都大学大学院
2居住空間工学講座
pp.6-9
発行日 2001年1月25日
Published Date 2001/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663902422
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時は流れ,入江の丘の上に建つ古い別荘に,夏毎に暮らす齢老いた姉妹,リビーとセーラ.2人はそれぞれに長い人生の中で夫に先立たれ,それぞれの幸せな日々の思い出を胸にしまって,老いの日々を送っている.視力を失い,偏屈な性向を強めた姉と,まだ新たな人との出会いや夢に心を動かす妹.長く人生を共にしてきた2人にとっても,老年期の共住はたやすいものではない.姉妹の人間関係に波紋を投ずる幾人かの登場人物とをめぐる濃密なドラマ展開は,観る者の心を捕えて離さないが,ここで粗筋を述べることは避けよう.
長く歩んできた人生の軌跡を自己の内外にきざみ込んだ,老年期における人と住まいの関係は,それを理解する上である時間の流れを必要とする.観察対象である場所を一定の時間を置いて繰り返し訪れることによって,あるいは個人史的回想や歴史を遡ることによって,肉眼では見ることのできない住まいと人との結びつきが見えてくるのである.
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