臨床に資する看護研究―私の研究指導 第1部 学生に対する私の研究指導
教育としての卒業研究―卒業論文の価値
武井 麻子
1
1日本赤十字看護大学
pp.904-907
発行日 1998年11月30日
Published Date 1998/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663901947
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学位論文の位置づけ
最近,映画にもなった評判の小説『薔薇の名前』の作者,ウンベルト・エコが執筆した『論文作法』1)という本を大変おもしろく読んだ(この手の本で,おもしろく読めるというのは珍しい).この本は,その名の通り,論文作成の方法について書かれているのだが,論文といってもただの論文ではない.博士論文や修士論文,卒業論文などの,いわゆる学位論文についてなのだ.なぜ,わざわざただの論文ではないというのかといえば,学位論文は単にオリジナルな発見があればよいというのではなく,審査に通り,「学位を受ける資格あり」と判定されなければならないという条件がついているからである.
エコはイタリアの大学の教員をしていて,「審査に通る論文」を書かせるために日夜苦労しているらしいことが行間から伝わってくる.エコは,大学がエリートのための大学であり,学生は四六時中勉学に打ち込め,授業も権威のある講演だった昔と比較して,現代の大学は大衆化という問題を抱えていると指摘する.学生によっては,ギリシャ語はおろかラテン語すら修めたことがないのに哲学や古典文献学を專攻するものさえあると彼は嘆く.さしずめ英語ができないのに英文学を専攻しようとするようなものだろうか.
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