連載 公衆衛生学 見方を変えたら・1【新連載】
新聞は教科書
清水 英佑
1
1東京慈恵会医科大学
pp.313
発行日 1997年4月25日
Published Date 1997/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663901603
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地下鉄サリン事件,未だに人々の脳裏から消え去らないオウム真理教が起こした犯罪である.我々は凶悪な犯罪であっても2年もすると記憶が薄れ,そんな事件もあったなあと思うことが多々ある.しかし,地下鉄サリン事件が未だに強く残っているのは,裁判の進捗状況や教祖の異常な言動がしばしば新聞やテレビで報道されるからであろう.
この事件が人々に与えたショックの原因は,瞬時にして重軽症者5500人を越える通勤客を巻き込み,しかも12人の死者がでたことである.国際的に問題になっている紛争地帯でもない,世界一平和で安全(?)な東京で起こったからである.後に明らかになったことであるが,この事件にはすでに伏線があった.それは松本サリン事件であったが,物質の特定はされていなかった.化学兵器の一種であるサリンが一般に公表されたのは地下鉄サリン事件の時である.事件後,テレビでは大学の教授が化学構造や合成方法まで詳細に説明し,大学の化学の教室でも簡単に合成出来るような説明をしていた.さらに,サリンの人体に対する影響についても被曝者の談話や医師の説明があり,目の前が暗くなった,視野が狭くなったという縮瞳に伴う症状や,嘔気,嘔吐,痙攣といった症状が報告されていた.これらは有機りん製剤の特徴で,血中コリンエステラーゼの低下が症状の重篤度に影響していたが,いずれにしてもニコチン作用とムスカリン作用によるものであった.
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