特別講義
人間のための教育―看護教育と教師教育
上田 薫
1
1前:都留文科大学
pp.464-469
発行日 1992年6月25日
Published Date 1992/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663900406
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神ならぬ身の
現代日本の教育としては,なによりもまず個を育てることが重要なのだが,その目的は今日までかならずしも十分に達成されているとはいえない.いや民主的社会を志向する日本の国が,今諸種の難問題をかかえて壁にぶつかっている感があるのは,民主的な社会に不可欠な個の育成がきわめて不十分であるためだといってよいのではないか.個を重んずるとは,個人のわがままを認めることではない.どんなにりっぱなルールも,個々の人間のありかたを無視して,抽象的,絶対的にあてはめられることは許されないという認識が,社会に徹底確立されているということである.
教師は子どもを指導する.看護者は病人に対応する.たしかにそこには相手を従わせる力がなくてはなるまい.しかし,その力の働きは,抽象的でも絶対的でもあってはならぬのではないか.そのことの詰めがあいまいで結局たてまえ的になるために,一応は無事でありながら,ときどき困難きわまる問題がひき起こされるのではないか.それどころか,無事にみえることの陰で,致命的な過誤が生み出されていくのではないか.
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