- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
保健医療福祉の現場で,対象者のニーズに応じたケアを実践するためには,もちろん疫学調査などの量的研究を行うことも大切ですが,それと同じぐらい,あるいはそれ以上に,1人ひとりの対象者の価値観や経験を洞察する質的研究の実施は大切なことであると思います。しかし,質的研究の方法は,統計学を駆使するような量的研究方法とは異なり,研究者自身の能力がそのままデータ収集の範囲や深さ,分析の質に影響してしまいます。そのため,保健医療福祉の実践者で,初めて質的研究に取り組もうとする人には,ハードルが高い印象があるかもしれません。特に,「インタビューをしたいけど,どうしたらいいの?」とか「逐語録に起こしてはみたけれど,この膨大なデータをどうしたらいいのだろう?」と途方にくれる人は多いのではないでしょうか?そのような人に,本書は役立つと思います。
簡単に本書の構成・内容を紹介しましょう。本書のタイトルが「初学者のための質的研究26の教え」というように,質的研究にかかわる内容が26項目(各項目が4〜6ページ)に簡潔にまとめられており,最初の項目から順々に読むこともできれば,途中の項目から必要な箇所だけを読むことができるようになっています。それぞれの項目は,質的研究の種類や方法の特徴,手順や留意点が概要の文章と表のかたちで整理されているので,一目瞭然でわかりやすいです。ところで,前半の項目は,「質的研究」の本でありながらも質的研究の内容に限定したものではありません。初学者が,研究を始めるうえで悩みそうなこと,たとえば「研究とはなにか」や「一次資料と二次資料の違い」「文献検索や文献検討をどうやってやればいいのか」というように,研究全般にかかわる基礎的知識や方法が紹介されています。また,質的調査(定性的調査)と量的調査(定量的調査)の違いが紹介されています。このことは,初学者が目的に応じて研究方法を選ぶときに量的研究がよいのか質的研究がよいのかを考えるうえで参考になるでしょう。研究方法の紹介は著者の経験が活かされており,具体的に示されています。たとえば,インタビュー法では,よい質問と悪い質問の例が表の形で載せられています。分析方法についてもデータ,コード,サブカテゴリー,カテゴリーの流れの具体例で明示されているので,実際の分析作業の手助けになると思います。
Copyright © 2015, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.