連載 実習の経験知 育ちの支援で師は育つ・11
問いかけの威力―“いい子仮面”がはずれるとき
新納 美美
1
1北海道大学大学院理学院自然史科学専攻
pp.614-617
発行日 2012年7月25日
Published Date 2012/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663102136
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仮面を被る気持ち
人生の節目には記念写真がつきものです。誕生,入学,卒業,結婚と,残されてきたアルバム。普段は書棚の片隅で眠っていますが,ふと手に取ると,与えられた命を支えられ,人のなかで生かされる日々が,自らを創りあげる何よりの財産であったことを諭される思いです。ここ一年余り,アルバムで思い出されるのは,がれきのなかから家族との想い出を探す被災者の姿です。見えなくなってしまった絆や心の軌跡を混沌としたなかから手繰り寄せるような作業,そして,痛み……。テレビの映像にふれるたび,私は衝撃で震撼する想いでした。が,その胸の痛みを超えて理性ばかりが研ぎ澄まされる感覚にとらわれるまで,そう長くはかかりませんでした。血液が冷めるようなその感覚が,私なりの“防衛”だということに気づいたのは,半年以上経ってからのことでした。
人は辛くなったり怖くなったりすると,いろいろな形で自分を護ることが知られています。身体を脱して現実から遠ざかってしまうような感覚を味わう人,激しい攻撃性を露わにする人……。かつてはそこに“人の弱さ”を見るだけだった私も,心を病む人やトラウマ・サバイバーと出逢ってからは「人は何て強いのだろう」と感服するようになりました。症状が出るというのは生き延びるために必要な反応の結果で,人間特有の生物学的な生きしぶとさなのではないかと考えるようになったのです。それゆえに,当事者には想像を超える辛さが伴うわけなのですが……。
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