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本書を手にとり,まず目に留まったのが,タイトルにある「医療福祉」という言葉である。「医療福祉ってなに?」と疑問を抱きつつ本書の扉を開くと,はじめにその意味や意図が次のように述べられている。「わが国は日本は世界一の長寿国となったが,このことは一方では高齢者や障害者など日常生活を営む上で何らの援助を必要とする多くの人が生きていること意味している。このため従来のような医療と福祉の考え方ではなく,医療職者と福祉職者がチームを組んで援助を必要とする人のニーズに応えることが必要とされている。このように医療と福祉の統合をはかった新しい発想が『医療福祉』である」と。たしかに,医療は地域完結型への移行が急速に進んでおり,多くの人たちは医療ニーズと生活援助が必要な状態で生活を営んである。すでに現場では,「医療福祉」の視点からチームでの取り組みが行われ,試行錯誤を重ねながらケアが行われている。新しい発想だが,現場で切実に求められている考え方であると納得できる。
次に,「ケースで学ぶ」のタイトルに導かれて『第2部事例編』へと向かう。14事例が掲載されており,各ケースのテーマを見ると,どれも臨床で遭遇し,しかもどう対応すればよいのかと悩んだ経験のあるテーマばかりである。どこから読み始めようかと悩んだ末に,やはり私の専門であるがん看護に関するケースから読んでみることにする。ケースの経過と問題点を通じて,私自身の経験が想起され「そうそう,こうしたことって悩むな」と共感する。続く,解決試案と根拠では,「なるほど」と大きく頷いたり,「あのときはどんな対応をしたかな?」と振り返りを行ったりして,考察を深めながら新たな視点に気づいていく。さらに,「この問題の捉え方や解決方法は,倫理的視点からどう考えることができるのか」との問いには,「生命倫理学の観点から」を読み,ポイントをしっかりと押さえて,思索にふけることができる。どんどんケースに引き込まれて,じゃあ次のケースでの対応はどうなっているのかが知りたいという気持ちが湧き上がってくる。また,ケースを読み進める中で,「あれ? この考え方って何だったかな」と思ったときには,『第1部手引き編』で必要な知識を補い再びケースに向かう。この「手引き編」という命名も親しみやすい。難しいかなと感じる理論などへの心理的なハードルが少し低く感じられ気に入っている。
臨床で日々倫理的な問題と直面している医療福祉職者はもちろんのこと,これから医療福祉の世界に足を踏み入れようとする初学者にとっても,「医療福祉の倫理」という切実で複雑な問題を解決するヒントが至る所にちりばめられている一冊である。
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