特別記事
アーサー・クライマンとの150分―認知症の人々との人間的相互作用と倫理的関係
阿保 順子
1
1北海道医療大学看護福祉学部
pp.1072-1077
発行日 2007年12月25日
Published Date 2007/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663100828
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ハーバード訪問
3月とはいえ冷たい雨風が打ちつけるボストンで,私たち一行はアーサー・クライマン先生の研究室を訪れた。目的は,認知症の人々のケアに関するディスカッションである。一行といっても,認知症を専門とし,通訳の達人である老年看護学の教員井出訓,慢性病を専門とする成人看護学の教員唐津ふさ,クライマンの枠組みを使って研究してきた博士課程の院生北村育子,そしてクライマンに関心を寄せ通訳も兼ねてくれた精神看護学の教員吉野賀寿美という,バラバラな背景をもつ5人である。ただ,クライマンに魅せられているという一点において,ご一行様になった次第である。幸いにも,今回の訪問の直接のきっかけになったハーバード大学博士課程に留学中の小西達也先生も訪問に同行してくださり,私は大船に乗った気分で,クライマン先生と対面することができた。ありがたかった。
研究室は,気さくなクライマン先生のお人柄そのままの,いかにも淡々と普通に仕事しているといった風情の空間であった。もちろん,先生が専門とするフィールド・中国に関する書物や医療人類学関連の書物が棚を飾り,机の上は,安心するくらい雑多な書類で占められていた。きれいに整理整頓された空間よりは,多少猥雑な空間のほうが人は安全感をもてるものである。そして当のクライマン先生は,にこやかに,気取ることもなく,これまた普通に私たちを歓迎してくれた。
到着したのは,11時5分前。ハーバードの教授たちというのは,分刻みで仕事をこなしていると聞いていたので,至極簡単な自己紹介をした後,すぐに本題に入った。
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