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時代淘汰の運命—最後の診断—アーサー・ヘイリー 著
前田 明
1
1東邦大学医学部病理学教室
pp.40
発行日 1986年1月1日
Published Date 1986/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543203548
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著者アーサー・ヘイリーについては,数年前あるテレビコマーシャルにも登場したことがあり,この『最後の診断』を含めた幾つかは映画化されているので,馴染みの方も多いのではと思う.彼の著書には,ホテル,大空港,自動車,マネーチェンジャーといった,一つの企業に題材をとったものが多く,こうした組織に内在する問題を主軸に,そこで働く人々の内面的描写と,取材の精緻さが醸し出す情景描写に惹かれる.
物語は,ニューヨーク州に隣接するペンシルバニア州バーリントの,管理上多くの問題をはらんだ地方病院が舞台となっている.表題の『最後の診断』は病理検査を指すが,そこの責任者でもはや進取の気性を失っている,頑迷一徹と思える老病理学者ピアスンは,病理検査報告の遅滞に端を発した病院執行部の改善勧告に,不服ながらも従わざるをえなくなる.そこに新しく着任した若き有能な病理医コールマンは,最新の医学知識を身につけ,古い体質の検査部門の改革に情熱を傾け,両者は反目する.しかし老病理医は,自らの退嬰主義が生んだもはや取返しのできない過失から,32年間築き上げてきた牙城を明け渡し,去らねばならない羽目となる.
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