連載 スクリーンに見るユースカルチャー・9
人生を茶化して語る
小池 高史
1
1横浜国立大学大学院教育学研究科
pp.308
発行日 2007年4月25日
Published Date 2007/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663100654
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今後のポストモダンメリトクラシー(あるいはハイパーメリトクラシー)の時代には,これまでの近代的能力に代わって,脱近代的能力としての人間関係スキルが重要になってくる。近代的能力とは,知能,学力,勤勉さといったもので,人間関係スキルとは,そのままだが人間関係をうまくこなす能力であり,具体的には,たとえば友達の多さやリーダーシップやコミュニケーション能力,自分の意見を主張できるかどうかなどといったことである。というようなことが近年,若者や教育に関して,学界と学界外とでよく言われる言葉である。
この映画の主人公,桃子(深田恭子)はどう見ても人間関係スキルは高くない。他人と合わせようとせず,人と関わることよりも好きな洋服を着ることを優先し,「自分だけ幸せならいいじゃない」と言い放つ。知能は高いのかもしれないが,学校の勉強が得意そうには思えない。それなのに彼女は幸せそうだし,輝いて見える。それは矛盾したことではない。なぜなら,「能力」という観点から人を判断することは,「(経済的に)豊かになるか/貧しくなるか」という基準からの一義的な判断でしかないからだ。このようなことは,改めて言わなくてもわかりきったことであるし,経済的な観点以外の観点から,人間はどうしたら幸せになれるかということをテーマにした作品は,これまでにも何度もくり返し,それこそ無数に作られてきている。
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