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はじめに
当大学では,医療チームの協働者としての相互理解を深める教育の一環として,医学科と看護学科の合同授業を設定している。これらの科目群は医学・看護学を学ぶ導入的位置づけにあり,筆者らはその1つである<医学・医療概論>の単元のうち『終末看護』を担当している。今回は終末医療・看護に携わる場合,死生観や人生観,生命尊厳を基盤にしてインフォームド・コンセント(Informed Consent,以下IC)に関する考えを構築していく必要があると考え,テーマを<患者の自分らしさを支える看護~生き方は自分で決めたい>とした。
終末医療の場が在宅から病院へ移行する中で,日常の生活の場で人の死に遭遇する機会は激減し,死を考えることはタブー視されてきた。しかし,テーマである<生き方を自分で決める>にはICが不可欠の条件となる。
人を対象とする実験的医療では被験者の同意が不可欠であるとした『ニュールンベルグ倫理綱領』(1947年)に始まるICとは,「威嚇又は不適応な誘導なしに,患者が理解できる方法及び言語により,適当で理解できる情報(診断の評価。提案された治療の目的,方法,予想される期間及び期待される利益。他の治療方法,提案された治療で予想される苦痛又は不快,危険及び副作用)」と定義される1)。
日本では平成10年に改訂された医療法「医療関係者の責務」第1条4項に,医療提供にはICを行わなければならないことが規定された。最近の判例では,医療行為の違法性阻却事由は<正当業務説>から患者の自己決定権に基づく同意によって正当化される傾向にある2)。
患者の自己決定権を支援するとは,患者にとっての最良の医療を患者と医療者が共同で決定していくことを意味しており3),このためには,支援者として死生観を吟味できる倫理的思考の涵養が必要であろう。
先行調査の結果,看護学生の場合,身近な人の死の体験者は61%(1981)4),85.9%(1971)5),97.5%(1992)6)の順であった。
ICの認知度は看護短大生のほうが非医学系短大生よりも高かった。がんの告知については,看護短大生の9割以上が「知らせてほしい」とし,非医学系短大生では「治る見込みがあれば知らせてほしい」とする者が多かった7)。看護学生と一般専門学校生の比較では,自分が末期がんの場合は「告知を望む」が最多で両者に差はないが,家族の場合では専門学校生に比べて看護学生は消極的であった8)。
医学部6年生の未告知・高齢者の終末期患者の事例検討では,“患者の希望を叶えたい”が最多で,次は“情報収集し,告知したい”であった9)。
一般病院の医療従事者と老人病院の看護師,看護学生の調査では,治療不可能な時でも告知を望む割合が多かった10)。医師と看護師,医学部学生の調査でも,86%が告知すべきであると回答したが,医師の実際の告知率ははるかに低い11)。
治癒する可能性の高いがんの告知に対する医学生と医師,看護学生,看護師,女子短大生の比較調査では,告知すると回答した者の率は90%以上であり,医学的知識があるほうが高かった12)。また,実習病院(高度医療機関)の告知率は50%で増加傾向にある13)。
日本とドイツの法学部学生と一般社会人対象の調査では,自分・家族とも告知を望む者は,日本72%,ドイツ93%,告知を自分に望み家族には望まない者は日本19.5%,ドイツ6.2%であった14)。
以上総括すると,告知を望む者は多いが実際の告知率は低く,告知を望む者であっても,自分の場合に比べて家族の場合には告知率は低い。治癒する可能性のある場合,医学的知識があるほうが告知率は高いが,家族が末期の場合は消極的である,などが明らかとなっている。しかし,看護学生と医学生を同時に集合調査したものや死の体験別に告知の状況を比較したものはなかった。
そこで講義対象学生の身近な人の死の体験とがん告知に対する考え方の実態,および看護学生と医学生の告知に対する考え方について,死の体験別・治癒可能性別に比較検討することにした。
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