連載 教え,伝える現場・10
都会に牧畜文化を―磯沼正徳さん
永井 祐子
pp.851-854
発行日 2006年11月1日
Published Date 2006/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663100379
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牛乳や乳製品の功罪についての論争が続いていることは承知の上で,今回は東京都・八王子にある牧場を訪ねた。街道沿いに草を食む乳牛,放牧場の眼下に連なる住宅街,糞尿の臭気のかわりにコーヒーの匂い,景観動物の役割もこなす乳牛……ここは,ヒトと牛が共演する不思議な牧場舞台。東京ならではの畜産に挑戦する,牧場主・磯沼正徳さんの思いに触れた。
学校給食に代表される食事の洋風化により,牛乳・乳製品の消費は急速に拡大したといわれる。牛乳は国内生産100%という,完全自給率。1965(昭和40)年には酪農家1戸当たりわずか3.4頭の乳牛飼養頭数だったのが,2003年には平均57.7頭となり,欧州の平均規模を上回る。さらに1頭当たりの年間搾乳量も7500kgを超え,世界トップクラスの生産性を誇っている。生産性が向上する一方で,酪農家の数は激減しており,2004年には2万8800戸と1963(昭和38)年の約15分の1にまで減少している(日刊酪農乳業速報より)。現在,島しょ部を除いた東京都下の酪農家は79戸。後継者不足で減少の一途だが,近年,スローフードブームに乗って“生産者の顔の見える”牛乳が注目されている。
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