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はじめに
私は1年ほど前に,医学を含む大学から看護学を含む大学に移動した。そこで,医療において成立し,維持され,今日に至っている社会的・文化的性役割を改めて実感することになった。
20世紀末期に米国に出現した女性の健康運動はかなりの成果を挙げたが,数年前にやっと日本にも飛び火し,性差医療の源流が生まれた。医学の局面では,1つの成果として女性外来を生み出した。これは,圧倒的に男性医師によって行われてきている医療,特に男性医師による産科・婦人科医療を好まない女性たちが求めたものだった。しかし,あるべき性差医療から見たら,まことにささやかな成果にすぎない。
一方,この大学に来て私が思ったのは,性差医療の流れは,看護学の局面ではどのような成果を生みつつあるのだろうかという疑問である。圧倒的に女性看護師によって行われてきた看護を,少なくとも男性患者たちはどのように考えているのだろうか? できたら,女性ではなく,男性の看護師に看てほしいと願っているのだろうか? この最後の質問に対しては,いいえ,という答えが当たっているのだろう。多分,大部分の男性たちは,看護は女性の役割と考えているからだ。
医学・看護学に見られるこのような性差別の背景には,約1万年前,定住とともにはじまった男性による女性の奴隷化があることが明らかである1)。そのため,少なくとも18世紀までの西欧では,男性の健康管理は男性医師が行ったが,女性の健康管理は女性産婆の役目だった。後に産科医となる男性産婆が出現すると,出産も健康管理も病院に移され,男性医師に引き渡された2)。一方,ナイチンゲールが科学にすることに貢献したとはいえ,19世紀では看護師はいまだ女性に割り振られた「忌むべき」職業であった。
こうしてみてくると,多少の改善はあったにせよ,医師は男性,看護師は女性の仕事という性役割が割り振られて今日に至ってきたといえよう。
本稿では,古脳のもつ生物学的性,セックス,を基盤として約1万年前に成立した男性優位社会が性役割を確立し,この性役割が新脳を男女で異なるもの,性差をもつものにつくりあげてしまう,つまり社会的・文化的性,ジェンダーとでもよべる性を新脳に付与するという私の仮説を説明したい。この新脳のジェンダーは生後の発達過程でつくられていく性であるが,一方,男女の古脳のセックスは生前,遺伝子的につくられる性である3, 4)。
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