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登場人物
A 大学教師:教育関連学部で社会学を教えている。50歳台,男性。
B 大学生:教育関連学部の4年生。20歳台,男性。
はじめに
A 今回は有害図書問題について検討してみましょう。この問題も長年の論争の歴史を引きずっています。ある種の出版物が人間,特に青少年に悪い影響を与えるのではという人々と,そうした考えに反対する人々との対立です。内容から見ると「暴力」「性にまつわること」「その他」の3つの領域に大別されると思います。
B どんな資料を使うんですか?
A 2002年に明石書店から刊行された橋本健午さんの『有害図書と青少年問題』を参考にしたいと思います。橋本さんはノンフィクション作家ですが,長年,日本雑誌協会というところに勤務され,出版に関する本を中心にさまざまな著作があります。
B この本はどんな特徴をもった本なのですか?
A ひと言でいうと,日本における有害図書問題の歴史を扱った本です。昭和20年(1945年)から,この本が出版された2002年までの60年近くを扱っています。最後には年表の形で,この間の推移が簡潔にまとめられています。
記述の特徴としては,各時代の新聞記事や雑誌記事,単行本などを丹念にあたって,たとえば,昭和30年なら30年当時,有害図書問題についてどういう社会の動きがあったか,この問題について意見を持っていた人はどんな発言をしたかなどが,詳しく書かれています。
もう1つの特徴は,著者の橋本さんが日本雑誌協会というところに勤めていたこともあって,この問題の当事者しか知らないような話も書かれていることです。また,著者のこの問題に対するスタンスもはっきりしていて,全体を通して規制に反対という立場から書かれています。記述はわかりやすく,読者が興味を持って読み進められるような工夫があちこちに見られます。
この本では,60年近くの歴史を順番に9つの章にまとめています。章のタイトルだけ並べてみると「1.戦後も検閲を受けた言論界,そして子どもたちは」「2.昭和三〇年,燃え盛る悪書追放運動」「3.太陽族映画,そして不良週刊誌問題」「4.不良図書追放と『出倫協』の結成」「5.官民結集による青少年育成国民会議の発足」「6.少女誌の性表現に腰を抜かした?大人たちの攻防」「7.『少年少女向けポルノ』コミック本騒動」「8.『子どもの権利条約』批准を渋った日本政府」「9.感情論を理論で補強する法律の専門家」の9章から成っています。
B おもしろそうな章構成ですね。
A どの時代も有害図書を規制したいグループと,そうした動きに反対のグループがいて,にらみ合いの状態にありました。そこに,それまでなかったような大胆な表現の本や雑誌があらわれて,世の中の注目を浴びます。規制したいグループは,この時を逃さずという感じで新たな規制を作ろうとしますが,反対派は当然のように,その動きに反発します。その繰り返しがずっと続いていたということが,この本を読むとよくわかります。
規制反対派がいちばん怖れるのは,都道府県の条例ではなく,国の法律として規制が条文化されることで,それを避けるために,自主規制の姿勢をうちだすやり方を用いてきました。
ただ,こうした規制についての両者の動きのバランスが崩れて,有害図書の規制に向かって世の中が大きく踏み出したのが,ここ数年の状況のようです。橋本さんも,そのあたりに大きな危惧を持っています。本書が刊行された理由の1つもそのあたりにあるようです。
B 今回は,どういうやり方で進めていくのですか?
A この本全部について検討するのは無理なので,第2章の「昭和三〇年,燃え盛る悪書追放運動」のところを少し詳しく見て,それから現在の問題についても考えてみることにしましょう。
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