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今,私は九州労災病院の院長をしている.院長自ら一番困ることは図書室の書物が少ないことである.われわれが十分満足できる程度に図書室を整備しようとすると莫大な費用が必要である.また図書はただ集めただけでは意味はない.これを十分に活用するための設備と人員が必要である.これを1病院で整備することは容易ではないし,少し勿体ない感じがする.随分古い話であるが昭和10年私はドイツのライプチヒの整形外科学教室で勉強していた.立派な図書室があるがそれでも世界各国の新らしい雑誌を全部備えているわけではない.それで何か図書室にない文献を探そうと思うと市立の図書館に行けばよいと教わつた.図書館に行つてみると医学部門があつてそこにはその方面に詳しい司書がいて何かと相談にのつてくれる.あの当時は未だ複写機等はなかつたが,こちらの希望を述べるとすぐに文献を探し出してくれた.そしてその書物を借りて帰ることもできた.
このような組織を日本てももつと発達させる必要がある.日本の市立図書館は科学的な文献の蒐集が非常に遅れている.特に医学部門を整備している所は殆んどない.そこで今私のいる北九州市でもいくつかの公的病院がありそれぞれ小さな図書室をもつているが,そのいずれもが内容が貧弱で少し文献を調べようと思えば一々九大まで行かなければならない.それでは非常に不便なために病院は苦しい財政の中から多額の図書費を捻出する.専門司書をおくのもなかなか容易ではない.定員をやりくりして私の所では1名の司書をおいている.こんな苦労は市立図書館がよく整備できているなら必要でないことである.殊に今日のように複写が容易にできる時代は図書館さえ整備しているなら1つの病院が苦労をして図書室の整備をする必要はない.無駄が多くてしかも効果は挙らない.私は日本にも大学だけではなく大学のない都市にも医学図書の整備を訴えたい.
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